「〝有名な皮フ科医も推奨″の実態がわかりました。名前と顔写真だけを貸して、中身の推薦文は、広告主が勝手にねつ造していたというわけです」という『消費者リポート』の1節だけはまったく事実に反していたが、その推薦文の入っている発売元の商品パンフレットを検証ぬきで流用してしまった以上、そう指弾されても仕方なかった。
いや、その商品パンフレットを世間にどんどん普及させていったのだから、私こそ主犯格の当事者なのだった。
とびついて売ってしまう姿勢表現の区分も曖昧のままに売ってしまう無責任な姿勢日本消費者連盟は、この2点から私の軽率を批判したのだった。
それに対して、私はひと言もなかった。
むろん、消費者を騙そうといった意図も認識もなかったけれど、結果的には騙してしまったのだものね。
メーカーや発売元にしても、私同様消費者を騙す気持なんてこれっぽっちもなかったはずだ。
「理屈ではこうなるから効果があるはずだ」レベルの商品開発が、いつのまにか、「効果がある」になってしまったのが実際のところだったと思う。
たぶん、それ以前に出ていた義歯や眼鏡の汚れを落とす超音波洗浄器の存在が、「はずだ」を「ある」に短絡させてしまったのだろう。
推薦者のコメントもまた、軽い気拝から出たヨイショだったと思う。
しかし、関係者全員のこの軽い気持が不当表示を生み出す温床なのだった。
この「軽い気持」は当事者間相互依存現象とでも名づけたらいいのだろうか。
あそこが売っているのだから間違いない商品だろう、うちも売ろう、みたいな連鎖現象。
追随した「天下の松下、東芝」を含めて、当事者たちはこの商品が消費者たちによろこばれていると信じていたのだ。
信じていたから、行け行けドンドンになってしまったのだ。
不当表示、誇大広告はしばしば、この「当事者が信じてしまう」ところから発生するのだろう。
第三者には信じられないのに、当事者は信じてしまう。
むろん、この場合の「信じてしまう」は、「信じたいから、信じてしまう」である。
おカネが儲かるものだから、「信じたい」が「信じる」に変化してしまう。
おカネの魔力が、客観性を見失わせてしまう。
第三者からはヒンシュクの目で見られているのに、当の本人はすっかりおカネの魔力にとらわれていて第三者の目に気づかない。
そんな浅ましい自分を発見してごらんよ、言葉もないくらいに打ちのめされるから。
このときばかりは私、「襖、悩!」とうめいたね。
「ずいぶん儲けたんだから、みんなに退職金はずんで、通信販売なんてやめて、のんびり暮らせば」と忠告してくれる社員や友人もいたけれど、ここでやめてしまったら、この先ずっと、モト性悪通販業者のレッテルを貼りつけたまま生きなくちゃいけない。
やめられない、という意地で私は固まった。
この「意地」を理性コトバに置き換えれば、「自己確認」になるのかな。
周の吹くままに通信販売の世界に入ってしまった私には、小売者としてのあるべき自己が欠落していた。
ジャン・P・メルヴィルの映画は破壊された自己(主人公)を映し出す大きな鏡がよく出てくることで有名だが、日本消費者連盟の批判は私にとってはまさにメルヴィルの鏡だった。
一体、私は通信販売を通してどんな自己を表現していくつもりだったんだ7万人の前で恥をかいてしまったのだから、なんとしても、おカネ儲けを考える以外の自分を通信販売の世界で探し出さなくては引っ込みがつかない。
以上の顛末がカタログ雑誌『通販生活』を創刊させる動機になった。
創刊のきっかけをつくってくれた日本消費者連盟の『消費者リポート79年11月7日号』はいまも私の座右の書の1つとして手元に置いてある。
いやいや、あまり感心しないでいいですよ、私には少々マゾの気があるらしいから。
日本消費者連盟の『エレンスパック』批判は現在の社史には表記していない。
八〇年代後期までは会社案内の中で表記していたのだが、別件で取材にきた週刊誌に「以前に問題を起したことのある会社」と思わせぶりに書かれることが度重なったので、閉口してはずしてしまった。
以後、大手企業の社史や日本共産党史の無謬性を笑えなくなってしまった。
日本消費者連盟の批判を受けて、まず初めに自覚したことは、当り前の話だけど、今後は「アホらしいキカイは売るまいぞ」だった。
「可能なかぎり、これから売る商品については信憑性をたしかめるぞ」だった。
私が『エレンスパック』を売り出した78年を遡ること17年も昔に、花森安治さんはすでに次のように書いていた。
電器メーカーも、このごろは、売るものがなくなったとみえて、ヘンテコなものを売り出しはじめた。
電気米とぎキカイとか、電気バサミとか、電気カツブシ削りとか、すこし前になるが電気オカン器とか……こういう広告をみていると、ヘタな漫画よりずっとおもしろい。
軍隊か大工場でもあるまいし、1日せいぜい1食か二食の米を、なにも電気でとがなくてもちっとも困らないし、第1米はさっとゴミを流す程度で、ゴシゴシといではいけない筈だ。
ハサミだって、縫製工場ででもないかぎり、なにも電気で切らなくったって十分間に合う。
カオブシ削り器もおかしい。
これをおもいついた人の家では、いまもって、三度三度カツブシを削って使っているのかな。
ポリエチレンの袋に入ったのをいくらでも売っているし、ダシはカツブシだけとは限らない。
1万何千円も出してキカイを買う気になる人がいたら、よほどムダ使いのすきなひとだ。
片方で即席ラーメンをすすり、片方で電気応用でカツブシを削り、なんて光景は、頚にうかべてみるだけで、ずいぶんとたのしい。
もっとも、たのしんでばかりいてはわるい。
さいわいこの程度のお粗末なアイディアでよかったら、いささか持ち合せがあるからタダで差し上げましょう。
この文章を知るのははるか後年になってからだが、言うまでもなく、『エレンスパック』は「電気で顔を洗うキカイ」だった。
17年も前に指摘されていたその「アホらしさ」を当時の私は「アホらしい」とは露考えずに売りつづけていたのだ。
後年、花森さんのこの文章を思い浮かべながら、こんな商品をこんなふうに売った。
これは便利だ、手で洗うよりよほどしっかりと野菜の農薬が落とせる。
[売るべき派の主張]昨年は中国産冷凍野菜どころか、国内産の果物、生鮮野菜の遵法農薬が大問題になった。
ほぼ全国にまたがる生産者が発ガン性の疑いがある違法農薬(ダイホルタン、プリクトラン、ナフサクなど)をりんご、メロン、いちご、キャベツ、白菜などに使用していたのだ。
本器が必要になってくる。
水洗いで農薬を落としてくれる葉物野菜専用の水洗い器だ。
果物類はムリだが、葉物なら手で洗うよりきれいに農薬、汚れを落とせる。
洗える野菜は、レタス・キャベツ・プチトマト・ピーマンといったサラダに使う野菜の他、ハープ野菜・ホウレンソウ・白菜・小松菜などの葉物野菜。
これらをある程度の大きさ(キャベツ1/4程度の大きさ)にカットしてカゴに入れる。
あとは水を流しながら、スイッチを入れるだけ。
モーター部は「洗い」「脱水」の2種のモードにわかれていて、「洗い」(所要時間目安約3分)の時には右回り・左回りを交互に繰り返す。
「脱水」(所要時間目安約20秒)は高速回転して、野菜の水を1気に切る仕組み。
充電式だから、シンク回りの配線は1切考えなくていい。
[売る必要ない派の主張]野菜を洗うのにわざわざ電気を使うなんて。
葉物1枚1枚をていねいに洗う手間が何だというのだ。
農薬を電気でふせぐなんて冗談やめてよ。
これを売ったら、通販生活の名前が泣くよ。
こういう道具を売ることは、現状を肯定してしまうことになるんだよ。
「ストップ・ザ・農薬過剰使用)は、農薬過剰使用の野菜を買わないことからしか生まれない。
こんな反対論をくっつけちゃったのだから、当然、売れなかった。
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